公益財団法人
吹田市健康づくり推進事業団
令和2年度 ロコモティブシンドローム予防教室 |
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令和2年度 ロコモティブシンドローム予防教室 「ロコモティブシンドローム(3)」 |
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講師 | 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 看護実践開発科学講座 教授 竹屋 泰 氏 |
皆さんこんにちは。 ロコモティブシンドロームの第3回目のお話をさせていただきます。 私は大阪大学の竹屋泰と申します。 どうぞよろしくお願いいたします。 |
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<スライド> | まだエビデンスが少ない新しい栄養学(1)高齢者と栄養 |
前回ロコモティブシンドローム、サルコペニア、或いはフレイルのお話をさせていただきましたが、それらを予防するためにはどういったことをすればいいのか。 まだわからないことが多く、しっかり栄養をとることと、よく運動することが、この予防に繋がるということがわかってきましたが、まだまだ研究の途中です。 したがって、現段階でこれらを予防することに大切だとわかっている研究についてお話させていただきます。 |
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<スライド> | 将来にわたり良い栄養状態を保つことが、健康的な加齢の助けとなる |
生涯を通じてよい栄養状態を保つことが、健康的な加齢の助けになることがわかっています。 十分なエネルギーとその内容です。それから水分をしっかり取ることです。 栄養の問題というのは、取り過ぎや足りな過ぎ、またバランス、これらが全部マッチしないと、正しい栄養状態を作れないということです。 やせ過ぎ太り過ぎ、好きなものだけ食べるとかは、良い食生活とは言えません。 |
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<スライド> | 高齢になるほど、栄養障害のリスクが増加します |
高齢になるほど、栄養障害のリスクが増加するということがわかっています。 | |
<スライド> | 健康上の問題→低栄養 |
老化に伴う健康問題としては、例えば、歯がだんだん少なくなってきたり、入れ歯がなかなか合わないといった問題です。 それから、飲み込みが困難になったり、食欲不振、便秘、唾液が出なくなった、何となく吐き気がする、そういった問題です。 栄養必要量の変化というのは(後で述べますが)、加齢に伴ってたんぱく質などは若い時より必要量が増えてきます。それによって低栄養に繋がる恐れがあるということです。 |
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<スライド> | 不健康な行動→低栄養 |
また不健康な行動は低栄養に繋がる恐れがあります。 特定の食べ物を嫌ったり、或いは咀嚼飲み込みが困難なために、どうしても食の嗜好が限定されることがあります。 アルコール乱用は、食事摂取量を減少させますし、消化吸収、代謝など食べ物を処理する能力を弱める可能性もあります。 運動不足は、(後で述べますが)サルコペニアやフレイル、ロコモティブシンドロームを引き起こす場合があります。 また女性などは、スリムな体形を目指してエネルギーを制限することもあります。 |
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<スライド> | 疾患、要介護状態、疼痛→低栄養 |
年配の方は、関節炎とか骨や筋肉の障害、それから神経障害、或いは食事に支障をきたすような疾患や合併症を患っている場合もあります。病気の問題です。 一部の薬は食欲を低下させることがありますし、フレイルとか要介護状態により動くことが困難になって、食料を買いに行けなくなったり、調理をするのが面倒になったりという問題もあります。 それから、認知症及びうつ、未診断の治療の疼痛などは、食事摂取量の減少に繋がる可能性もあります。 |
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<スライド> | 経済的および社会的状況→低栄養 |
経済的及び社会的状況も、問題になって低栄養に繋がる可能性があります。 | |
<スライド> | 若年者と高齢者におけるBMIおよび全死因の死亡率 |
このようなことで、加齢に伴って低栄養のリスクというのは高まります。 体重と死亡の関連の表をお示しします。 上に行けば行くほど死亡率が高いということです。横に行けば行くほど太っているということです。BMIというのをご存知でしょうか? これは体重を身長(メートルで表した身長)で2回割ったものです。例えば60キロで150センチの人は、60÷1.5÷1.5がBMIです。 理想的なBMIは22前後と言われていますが、ある程度幅はあります。その理想的なBMIよりも、体重が大きくなると、やはり死亡率は上がりますが、やせ過ぎても死亡率が高くなります。 若い人のBMIは22のあたりが理想的と考えられていますが、高齢者では、それが右にシフトします。22よりも少し太っていた方が死亡率が低いです。 それは、多くの研究で同じような報告が世界中でされています。若い時より少し太った方が死亡率が低下するというふうに報告されています。 |
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<スライド> | 体重減少は体重の増加よりも生存率に悪影響を及ぼします |
長期療養施設に入所していた高齢の方、非常に高齢の方で90歳を超えたような方を見ますと、90歳の人たちの中で、その後体重が変わらなかった人、増えた人、減っていった人を見ると、体重が減っていった人で3,000日生きることができた人はこれだけでした。(右端の棒グラフ) 一方、増えた人、変わらなかった人の方が長生きしているということです。 体重はあまり減らない方がいいわけです。不変か、或いは太っても悪くないわけです。 |
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<スライド> | 低体重は死亡リスクと関連します |
これは、先ほどのBMIです。BMIは数字が高いほど肥えている。若い人であれば22ぐらいが理想であるということです。BMIが35というのは超肥満です。 例えば、150センチ、78キロぐらいがBMI 35です。 例えばBMI 30はどのくらいかというと、150センチであれば68キロくらいの人がBMI 30です。ちょっと肥えています。 でも、長期療養施設に入所する90代のような人は、BMIが35を超えていた人は400日誰も死ななかったが、20を切っているような人は400日間で半分以上の人が死んでしまったということです。 太っている方がいいわけです。わざわざ太る必要はありませんが、少なくとも、太っているのが若い人と同様に悪いわけではなくて、むしろやせている方がよくないということを示した報告です。 |
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<スライド> | 高BMI値の保護効果 |
横軸がBMIです。左に行けば行くほどやせている。右に行けば行くほど太っている。 上に行けば行くほど、死亡率が高いということですけども、BMI 27あたりで男性も女性も、(若い人はこのくらい(22.5to24.9)が理想ですが、)一番寿命が長かったということになります。 30でもこのくらいです。先ほども言いましたが、BMI 30は、150センチであれば68キロぐらいの体重です。やせているよりも、ある程度体重があった人の方が長生きをしたという報告です。 |
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<スライド> | 日本人の目標BM |
日本人の目標BMIは、年配の方ではわかっていません。若い人は22ぐらいでいいでしょう。ただ70歳以上になると、それがだんだんもう少し大きい方がいいのではないかと言われています。 まだ、妥当性が十分に科学的に確認されていないため、どのぐらいの体重にするのが理想体重なのかというのはわかっていませんが、やせ過ぎには注意ということは正しいようです。 |
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<スライド> | 肥満は要介護状態の原因になります |
一方で、肥満でもいいかというと、それはあまりよくないです。 これは女性において調べられたけ報告ですが、太っていると、どうしても足腰の動きが悪くなってロコモティブシンドロームに繋がりやすいという報告です。太りすぎもあまりよくない。難しいですね。 今ある体重を、無理にやせる必要はありませんし、無理に太る必要もありません。 なるべく今の体重を維持していくということが大事だということす。 |
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<スライド> | 男性では肥満はうつ病に関連しています |
男性では太っているというのは、うつになりやすいです。 ということで、一方で太ってよかった、もうたくさん食べて太ろうというわけではないわけでありますので、注意してください。 |
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<スライド> | まだエビデンスが少ない新しい栄養学(2)サルコペニアと栄養 |
サルコペニアと栄養についても多くの研究がされていますが、まだまだ発展途上です。 | |
<スライド> | たんぱく質摂取量低下は、除脂肪量の低下につながる |
タンパク質をしっかり摂ることが大事だということが多く報告されています。 これは、右に行けば行くほどたくさんたんぱく質を摂っている人ですが、筋肉量の減少が抑制された。運動していなくても、タンパク質を摂るだけで、筋肉量が維持されるということです。 |
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<スライド> | たんぱく質の摂取量と骨格筋量の関係 |
これも同じような報告です。 右の方がたんぱく質をたくさん摂っていて、左の方は低いです。 低いと筋肉の量はどんどん減りますが、運動は関係なく、食べるだけで筋肉量はある程度維持される。 たんぱく質をしっかり摂るということが筋肉量の維持に大事であるということが報告されています。 |
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<スライド> | 高齢者ほど多くのたんぱく質の摂取が必要 |
これはなぜかというと、若い人であれば、肉や魚を摂ると、たんぱく質の原料である血中アミノ酸が増えます。 若い人は、このぐらいの血中アミノ酸(左上のグラフ)、そんなに高くなくてもこれくらいの血中アミノ酸があれば、たんぱくを作り始めてくれて、これだけのたんぱくができます(左下のグラフ)。 高齢者は同じようにとっても、血中アミノ酸がこのぐらいの濃度にならないと(中上のグラフ)作ってくれません。だからこれだけとっても、このぐらいしか作られないわけです(中下のグラフ)。 若い人と同じだけたんぱく質をとっても、筋肉になる量というのは、高齢者では少ないわけです。 若い人と同じだけ筋肉を作ろうとすると、このぐらい取らないと若い人と同じだけ筋肉が作れないということになるわけです(右上下グラフ)。 高齢者では、若い人よりも、同じ筋肉を作るために、たくさんのたんぱく質を摂らなくてはならないということです。 従って、若い人以上に高齢者はたんぱく質を摂っていただきたいということです。 |
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<スライド> | たんぱく質摂取と運動を組み合わせることで筋肉関連の転帰が改善するか? |
実際にいろいろな報告がされていますが、さらにそれは運動と組み合わせると、筋肉の維持に繋がりますし、筋肉の働きにも繋がるということがわかっています。 ただサルコペニアと筋肉関連についてもまだまだ研究は不足しています。 |
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<スライド> | まだエビデンスが少ない新しい栄養学(3)フレイルと栄養 |
フレイルと栄養についても、まだまだこれからということではありますが、フレイルとサルコペニアは共通点が多いので、やはり同じような研究結果が出ています。 | |
<スライド> | 栄養の摂取量が少ないと、フレイル発現のリスクが増加する |
例えば、75歳以上のフレイルの方を見ると、90%以上が栄養障害のリスクがあるということで、高齢者において栄養不良の状態というのは、直ちにフレイルと関係してくるということです。 フレイル予防のために、栄養というのは非常に重要であるということがわかっています。 |
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<スライド> | たんぱく質の摂取量が少ないと、フレイルのリスクが増加する |
では何が関係するかというとやはりたんぱく質です。 たんぱく質の摂取量が少ないとフレイルのリスクが高まるということです。 たんぱく質を多く摂っている人はフレイルになりにくかったということです。 運動は関係ないです。たんぱく質を摂るだけです。たんぱく質を摂るだけでフレイルになりにくい。 運動が苦手、或いはできない人がいても、たんぱく質を多く摂るというのは十分意味のあることです。 |
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<スライド> | たんぱく質の補給によりフレイル 高齢者の身体機能に改善がみられた |
たんぱく質を補給してあげると、そうでない人に比べて、歩行速度とかの身体活動度(SPPB)も、運動しなくてもたんぱく質を摂るだけで、身体機能が上がるということです。 私は、最近はどうせお腹を膨らませるなら、なるべくたんぱく質でおなかを膨らませようというふうにしています。 |
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<スライド> | 複数のビタミン欠乏はフレイルと関連する |
それからビタミンも大事です。 AとかBとかCとかDとかEとかいろいろあります。 2種類上、ビタミンが不足するとフレイルに関係するということがわかっています。 従って、お野菜など、ビタミンをバランスよくとることが大事です。 なかなか野菜が食べられない人は、マルチビタミンみたいなものを利用してもらったらいいと思いますが、やはり食事から野菜とかを摂るほうがより良いということもわかっています。 あくまで、サプリメントで摂るのは、食事で摂れないときということで、できれば食事から摂るというのが、より良いということがわかっています。 フレイルの予防にも、或いは認知症の予防にも、食事から摂るということがより大事だということがわかっています。 |
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<スライド> | 血中ビタミンD濃度の低値はフレイルのリスクと関連する |
また、ビタミンの中でビタミンDが非常に大事だということもわかっています。 ビタミンDは、唯一ビタミンの中でフレイルを予防する可能性があると考えられているビタミンです。 まだまだ他にもあるかもしれませんが、現在、ビタミンDを取ることがフレイル予防には大事だということが言われています。 |
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<スライド> | 栄養と運動はフレイルの改善に役立つ |
健康な状態から、フレイルの一歩手前、それからフレイルな状態というのは、運動、或いは栄養で、また元の状態に戻れることがわかっています。 今日は栄養の話をしましたが、運動ももちろん大事です。そして栄養をしっかり摂る。 特に、たんぱく質ビタミン、その中でも、ビタミンDがフレイルな状態から、健常な状態にまた戻してくれたり、或いは健常な状態を維持してくれたりということがわかっていますので、栄養をしっかり摂って、運動と組み合わせてフレイルを予防していきたいと思います。 |
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<スライド> | 運動習慣の実態と目標 |
運動はなかなか難しいです。 実際に始めてみようと思ってもこの時期寒いということがあるかと思います。 運動ができていない理由は何ですかと聞くと、運動するきっかけがないから、どのように運動すればよいのかわからないからということです。 実際に日本の現状を調べてみますと、国が掲げている目標というのは男性で7,000歩毎日歩きましょう。女性で6,000歩歩きましょうということですが、現状ちょっと足りないです。 皆さんに頑張っていただいて、運動習慣者の割合をもう少し増やさないといけないです。本当は100%になってもらいたです。 運動の目標は、寝たきり予防は1日5,000歩以上で、その中で、可能な方は少し早歩きをしていただく。7分ほどです。 動脈硬化、心筋梗塞とか、脳卒中の予防、或いは骨粗鬆症の予防、筋力を維持するには、このぐらい歩かなければいけません。(右下の図) 7,000歩で、その中で15分ぐらいはちょっと早歩きをしていただくと、より良いということです。 運動と栄養。栄養も高いもの食べる必要はありません。高級食材である必要ありません。 歩くのは、気をつけて歩いていただきたいですが、ただです。そんなことで、フレイルを予防できて、健康。これはお金に変えられません。ただで、お金に替えられない健康が手に入るということです。 ぜひ運動するきっかけにしていただいて、今からもったいないと思って、ぜひ歩いていただきたいと思います。 |
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<スライド> | 「メタボ」対策から「フレイル」対策へ |
65歳ぐらいまでは、カロリー制限とか塩分控えてください、メタボ対策というのが重要です。 しかし75歳からは、メタボがあっても、フレイル対策が重要になります。カロリーをしっかり、たんぱく質、ビタミン、そういったものをしっかりし摂っていただいて、ぜひ、全国の皆さんが健康でいられますように。 本日はこれで講演を終わりたいと思います。 3回にわたっておつき合いいただきましてどうもありがとうございました。 皆さんどうぞお元気で。 |